センス・オブ・ビロンギングズ - ヒトとモノの絆
どうしてモノはヒトと特別な絆を感じると、長持ちするのでしょう?

トニー・チェンバー氏が、30年以上に渡り愛用するチャーチの靴。ヴィツゥのエキシビションにて。
トニー・チェンバー氏が、30年以上に渡り愛用するチャーチの靴。

文章、写真: Vitsœ

エキシビションは、ヴィツゥのロンドン・ショップにて、ロンドン・デザイン・フェスティバル 2018 開催中から、10月6日まで行われています。

ヴィツゥ

3-5 Duke Street
London
W1U 3ED
United Kingdom

9月15日 - 10月6日

月曜日 - 土曜日 10:00 - 18:00

未だかつて無いほど、モノが使い捨てされる時代。 そんな時代に、捨てられることなく、長い間愛用され続けているモノは、他のモノとどのような違いがあるのでしょう?

ヴィツゥのロンドン・ショップで開催されるこのエキシビションでは、ヴィツゥと長年付き合いのある多彩なお客さまや友人に声をかけ、彼らが長年修繕を繰り返しながら愛用してきたモノを通し、その答えを探ります。

どのストーリーからも、持ち主のモノへの想いが伝わってきます。長くて深い、モノとの絆を感じることこそ、人間社会がもたらす、地球環境や資源への負担軽減につながるのではないでしょうか。

1950年代製のプレス式アイロン。ヴィツゥのエキシビションにて。

プレス式アイロン

このプレス式アイロンは、 1950年代に、私の祖父母が購入したものです。田舎の家のキッチンに置かれ、毎週、これでシーツやテーブルクロスにアイロンをかけていたそうです。 1970年代になると綿ポリエステル混紡の、アイロンの必要の無いシーツが出回り、またテーブルクロス一般的ではなくなると、プレス式アイロンはすっかり使われなくなってしまったようです。

再びこのプレス式アイロンを使うようになったきっかけは、1980年代中頃、テキスタイル・デザインを専攻していた母でした。壁掛け用布のプリント染料を定着させる為に使い始めたのです。 当初はスタジオに置いてありましたが、やがて結婚して家族が増え、ベッドリネンなどの洗い物も増えると、家に持ち込み使い始めたそうです。20年もの間、それは我が家の同じところに鎮座し、毎週、ベッドリネンをプレスし続けました。

そして、現在、今度は私がカスタムジーンズに乗せる染料の定着に使っています。 長年の使用で焦げたりシミがついた下の部分の布カバーは、これまでに何度も取り替えてきました。

また、上の部分はバネが弱っているので、開いた状態を保てるように木の棒を差し込んで使っています。ケーブルも付け替えていますが、多分、また付け替えが必要になるでしょう。とはいえ、まだまだ現役の働きものです。

オデット・モンカー、テキスタイル・デザイナー

日本製の包丁。ヴィツゥのエキシビションにて。

日本製の包丁

なかなか店が見つけることができなくて。三度目の日本旅行の際にやっと辿りつくことができた、東京の正本総本店。 それはもう、探し回った甲斐はありました。棚に並ぶキラキラ光る包丁を見て、思わずヨダレが出てしまったほどです。そこで、店員さんに相談しながら選んだのが、私の手にも背丈にもしっくりくる白紙1号(玉白鋼)の牛刃です。

持ち手は洋庖刀タイプにしましたが、これだとツバの部分がないのでサヤが固定されにくい。そこでツバキ油に浸した布を使って自分で改良し、刃がしっかりサヤに収まるようにしています。

正本の若いスタッフが砥石を使った研ぎ方も指導してくれました。新しいスキルを学び、それに磨きをかけるという喜び。それは今も続いています。とはいえ、いまだに正本のスタッフのように上手に研ぐことはできませんが。

ウィル・リー、シェフ

オリジナルのトースト用フォーク。ヴィツゥのエキシビションにて。

オリジナルのトースト用フォーク

このフォークは、私の曽祖父がサウス・ロンドンのエンジニア会社で見習いをしていた時に作ったものです。はっきりとは分かりませんが、おそらく1900年代頃と思います。

フォークは会社に転がっている廃材で作られたそうです。いろんなサイズのボルトや座金を合わせて出来ているハンドル部を見れば、それがわかります。 祖母たちが暖炉でパンを炙ってトーストにするのに使い、祖母の兄の子供たちも同じように使ってきました。

祖父母たちが暮らしたどの家でも、このフォークは暖炉の横に誇らしげに置かれていたものです。 子供の頃、いかにして作られたかよく聞かされたものです。数年前に祖母が亡くなった時、母と叔父に頼んでこの一点だけ「思い出の品」として譲り受けました。祖母との心の繋がりを一番感じるアイテムだったからです。

スティーブン・マン、ファッション・コンサルタント

イカットのサッシュベルト。ヴィツゥのエキシビションにて。

イカットのサッシュベルト

メアリー・レスティイーオが織ったこのイカッタのサッシュベルトを買ったのは、1980年代末のこと。当時私はアールシャム・ストリートにあったブリティッシュ・クラフト・カウンシルで働いていました。母のために買ったのですが、私が使うようになりました。

これまで数えきれないほど身につけてきましたが、 型崩れも色褪せもしていないのは、織地のクオリティーが高いからこそ。いわゆるファッションアイテムではありませんが 、スタイリング次第で、いろんな着こなしに使える逸品です。

長年、このサッシュベルトを愛用しているのは、レベルの高いイギリスのデザインやクラフト技術を広めたい、という私の気持ちの現れと思います。

ヴァネッサ・スワン MBE、アートビジネス・コンサルタント

30年以上愛用している、チャーチの靴。ヴィツゥのエキシビションにて。

この愛すべきイギリスの老舗「チャーチ」の靴(ウィングチップシューズ)は、私が初めて‘ちゃんと’いただいた給料で買った、初めての‘ちゃんとした’靴なのです。だから特別な思い入れがあります。今やしっかり使い込まれていい味があり、それでいてコンディションも抜群。6年前にチャーチの工房でしっかりとメンテナンスしてもらい、最近靴底も張り替えました。

これを買ったのは1987年のこと。当時、師であり友人であり、タイポグラファーのレイモンド・ロバーツに大いに影響を受けていました。彼のアドバイスは、結局長持ちするのだから、高くてもクオリティーの高いものを買え、というものでした。まったくその通りでした。 モダニストでディーター・ラムスの信望者だったレイモンドは、昨年92歳で大往生しています。私がこの靴を今も履き続けていること、そしてヴィツゥのシェルビングにディスプレイされていることを、 きっと彼もあの世で喜んでいるでしょう。

トニー・チャンバース、エディター&クリエイティブ・コンサルタント

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ヴィツゥのロンドン・ショップでは、お客さまや友人が選んだ20点あまりのアイテムを展示中です。

9月15日から10月6日まで。3-5 Duke Street, W1U 3ED にて開催中。月曜日 - 土曜日, 10:00 – 18:00。