フレキシブルな労働空間
ダンス・サーカス集団、モーションハウス。ヴィツゥのロイヤル・レミントン・スパの建物空間の一部を共有しています。

Motionhouse at Vitsoe in Royal Leamington Spa ©Dirk Lindner

Words: Jana Scholze

Photography: Dirk Lindner

ヴィツゥとモーションハウス、どのような共通点があるのでしょう?

この2つの存在を、お互いの業界内のみで定義することは、実際の影響力を狭めることになるでしょう。

ヴィツゥ代表、マーク・アダムスは、家具業界の慣習や、一般的なビジネスモデルを否定し、「ビジネスとは、その会社の考え方や姿勢、そのものである」と、常に主張してきました。

ダンス・カンパニーのモーションハウスは、ヴィツゥと同じく、観客(お客さま)の期待を形にすることによって運営されています。 モーションハウスのダンスへの解釈は、広い意味での「動き」を意味し、衣装や舞台装置、ストーリーだけでなく、屋内外の空間全てを含めたものと言います。例えば「Torgue(トルク)」という、ペアダンスの作品は、工事現場にある黄色いショベルカーを、ダンス空間に取り入れたものになります。 モーションハウスの創立者のひとり、ルイーズ・リチャーズは、次のように説明しています。

「以前、我々はダンスの演技面を強調する為に、ダンス・シアターという肩書きを使用することがありました。しかし、サーカスのスキルや、トリックベースのアイデアを使うことの重要性に気づいたことで、ダンス・サーカスという言葉にたどり着いたのです。」

Motionhouse at Vitsoe in Royal Leamington Spa
モーションハウスの創立者のひとり、ディレクターのルイーズ・リチャーズ

モーションハウスは、ロイヤル・レミントン・スパを拠点とし、イギリス国内に止まらず、グローバルに活動をしています。地域のコミュニティーに密接に関係しながらも、世界規模で活躍していること。これは、まさにヴィツゥが理想とする例であり、イギリス中心部のスパタウンが、新社屋に相応しい場所であると確信させる存在でした。

ヴィツゥとモーションハウスの出会いは、5年ほど前。異なる業界であることから、お互いの仕事を理解することから会話が始まり、多くの共通点と価値観が明らかになりました。

会話が進むにつれて、ヴィツゥの新しい空間をシェアするアイデアが生まれました。ー もちろん、新しい挑戦にリスクが無い訳ではありません。 リチャーズはこのように述べました。

「人生に起きる事のほとんどが、実験のようなものです。モーションハウスとヴィツゥ、お互いが今まで得てきた経験は異なりますが、根底にある精神は、とても近いものがあります。 ヴィツゥの新しい建物に吹き込まれた情熱とエネルギーは、同じ建物内で過ごすことで伝染します。このヴィツゥの建物は、モーションハウスの作品を作る、私たちにとって最初の”家”ということです。」

”家”という言葉は、決して仮の場所という訳ではありません。何かを「作る場所」を共同で創造する、その為の招待状のようだと、リチャーズは言いました。

異なる2つの存在が、同じ屋根の下に。これを実現する為に、ヴィツゥは、オープンで透明性があり、思わぬものを偶然に発見できる建物作りを目指しました。

Motionhouse at Vitsoe in Royal Leamington Spa ©Dirk Lindner
モーションハウス。ヴィツゥと外部からのゲストを混じえてのランチタイム。

部署や役割の垣根を超えて、人と人との交流を活性化するというアイデアは、単に自然発生的なミーティングを設けることだけでなく、その空間にいる全員の動きを活性化することを目的としました。

毎日の職場でのルーティーン、ライフスタイルは、その人の健康へ、直接影響を及ぼします。長時間座りっぱなしの作業は、定時で行われるお茶休憩により全てが中断されることで、さらに効率的に成果をあげるものになるのです。

家具の組み立てと梱包は、建物の南側、エントランス付近で行われています。一方、食事やミーティングのスペースは、100mほど離れた、建物の北側に位置します。 ヴィツゥのアーカイブ・アイテムは、ダイニングエリア横にディスプレイされ、建物の中央部分のエリアは、モーションハウスの活動場所となっています。 身体的にも精神的にもエネルギッシュなダンサー達が、建物中心部で活動することにより、建物全体に活気を加わえることとなりました。 この空間配置は、ヴィツゥとモーションハウス、両者の意向によって変更することもでき、建物は様々なシチュエーションに対応できる、柔軟性の高いデザインになっています。

この表情溢れる共同空間を作るアイデアは、モーションハウスが、イギリスのアート協会からの、資金援助を得たことにより実現しました。この資金で、モーションハウスは、フロアのクッションや照明器具など、必要な設備を整えることができたのです。

ヴィツゥとモーションハウス、相互に尊敬しあう関係が、お互いのニーズを理解しサポートするという、今の基盤を作りました。 この共同事業において、ヴィツゥとモーションハウスは、生じた課題に対して、共に解決するという認識を持つこととなりました。リチャーズはこのように述べています。

「練習やリハーサルに集中していると、私たちの音響が、どれ程うるさいか気づきませんでした。同じオープンスペースのどこかで、静かな場所でクライアントとミーティングをしたい人もいるのです。この音響問題が、私たちの最初の大きな課題となりました。

話し合いを重ねることを通し、最も効果的な問題解決には、密な”対話”が必要だと気づきました。例えば、スケジュールを柔軟に調整することで、お互いの邪魔にならないようにする。しかし、両者とも解決策に向けや協力的な姿勢があることを前提とします。」

この対話こそ、ひとつの空間に共存するビジネスとアートの関係を再考する機会を与え、この共有空間を実現させる、唯一の手段と言えるでしょう。 業界のスタンダードに断固として沿わない姿勢は、両社のDNAに流れています。この姿勢は、伝統への疑問と、経済的、文化的、政治的、さらに社会的な、新たな価値への追求心から派生しています。

ヴィツゥの「No Sale(セールはしません)」のキャンペーンは、ヴィツゥの哲学である、「より良く暮らすには、長持ちするものを少しだけ。」という言葉に基づきます。 この、人道主義なアプローチは、成功は生産と利益の拡大によって定義する、新自由主義の考え方に異を唱えたものになります。 モーションハウスとのパートナーシップを組む事で、従来とは違う角度から、ヴィツゥの信念を強調する手段となったのです。

Motionhouse at Vitsoe in Royal Leamington Spa ©Dirk Lindner
ヴィツゥの建物中央部にある、モーションハウスのリハーサルセット。

モーションハウスは、公演を公共のスペースに移した先駆者です。多くの一般の人がアートに触れる機会を作ることで、市民としての責任を果たしました。 ヴィツゥとモーションハウス、両社は、人々のニーズを何よりも考慮する共通の考え方に基づき、新しい結果を出す為の効率的な方法を見出しました。

空間を共有すること。 実に革新的でありながら、必ず上手くいくと、ヴィツゥにとって確信の持てることなのです。

ヤーナ・ショルタ。 コンテンポラリー・デザインを専門とするキュレーター。長年ヴィクトリア&アルバートミュージアムにてキュレーションに携わる。その後、ロンドンのキングストン大学の、コンテンポラリー・デザイン科の大学院にて、助教授兼、学科のディレクターとして活躍中。